(1)「バガでねぇが。」
(2)「ひとーバガにして!」
(3)「コバガくせぇ。」
(4)「バガでぎだので、休みます。」
(5)「バーガかだってぇ。」
例に漏れず気仙沼では「バカ」を多用する。しかし「バガ」である。芳賀さんの「が」のように鼻濁音にせず、思いっきり発音する。
(1)は大阪弁の「アホちゃうか」と同義である。清音だけの「アホちゃうか」は軽やかで、メディアで聞き慣れているせいか受け入れやすい。しかし、すべてに濁音がつく「バガでねぇが」はどうも重々しく聞こえてしまうが、貶める意味合いは非常に薄い。
(2)は呼んで字のごとく「人を馬鹿にして」だ。使い方はアガラインを参照してほしい。
(3)は、侮蔑ではなく「馬鹿馬鹿しい」「くだらない」程度の意味であり、まとめると大阪弁でいう「アホくさ」と同義であろう。
(4)の「バガ」が分かる人なら、立派な気仙沼人だ。
ものもらいのことである。
人口流動の穏やかな気仙沼で唯一、他地域から来る確率が高いのは県立高校の教員であろう。
もう20年以上前になるが、TBS「思えば遠くへ来たもんだ」のロケが気仙沼で行われた。高校に赴任したての古谷一行が、クラスの出欠をとるのに一苦労したシーンだけ鮮明に覚えている。気仙沼の地名を苗字にして「母体田(もたいだ)太郎」「五駄鱈(ごだんだら)次郎」のような難解なものばかり並んでいた。
それはともかく、他所出身の教員が「バガでぎました」と聞いたら何ができたのか混乱することだろう。
(5)は何通りかの言い回しがあり、漢字に変換すると「語る」だ。使い方は、実際の場面で考えると分かりやすい。
A:宝くじに当たったと報告する相手に「バガかだって」と発する。その意は「まさか」である。
B:価格交渉で法外な値下げを求められ「バガかだんねぇでけろ」と哀願する。その意は「無茶をおっしゃらないでいただけませんか」である。
C:合コンしたばかりの相手にプロポーズされ「バガかだんな〜」と否定する。その意は「え?私でいいの?」である。
この「バカ」は自身の許容範囲を超えた時に反射的に発せられるもので、相手にではなく自分にバカと言っているのだ。さらにえぐれば「私の思考を切り替えますので一寸お待ちを」といったところだろう。
最後に「三年目の浮気」(ヒロシ&キーボー)を気仙沼弁に訳すとこうなる。
バガかだんでねぇ おめぇとおれぁ
ケンカすたけんとも ひとづの屋敷で暮らすてきたべっちゃ
バカと言ったヒロシがバカだった…。