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ダリ

ダリ

(1)「これ。いづだりかづだり口笛吹ぐんでね。ほいど来っつぉ。」
(2)「どごだりかぐだりさ置ぐな。」
(3)「あんだすか。だんだりかんだりさめぐせってかだってんの。」
(4)「なんだりかんだり喋んでね。あだりほどり見でかだれ。」

「なんだりかんだり」は東北の広範囲で使われ、副詞の「なんでもかんでも」と紹介されている。気仙沼では派生して「いつ」「どこ」「だれ」にも「〜だり〜だり」、しかし使用場面から意味を探ると「なんでも」「いつでも」「どこでも」「だれでも」ではないことが判明した。

1は「こら、こんな時間に口笛を吹くものではありません。乞食がやってくるわよ」である。口笛を夜吹くと、ある時はほいど、またある時は貧乏神、就学前にはモーが来ると脅されていた。別に夜に吹いていけない確たる理由はないが、狭い土地にひしめきあって建てているので、小さな音でも隣に筒抜けだ。そのような土地柄、口笛は近所迷惑だろうとの配慮からであろう。「いつでも」ではなく、「時間をわきまえて」の意味になる。

2は「あちこちに散らかさないで」だ。カッターなどの刃物類、貴重品など保管先が決まっている物で、放置すると生活に支障をきたす場合に使う。廊下にランドセルを置いて通行の妨げなっていたり、爪切りがテーブルの上に置きっぱなしだったり、という場面を想像すると良いだろう。その意は「所定の場所に」である。

3は「私が不細工だって吹聴しているのはあなたですね」である。同じ話を2人以上から聞いた、しかし全員ではない。誰から聞いたか知っているが、特定の名前を明らかにせず情報提供者の保護につとめる。メディアで言えば「政府高官によれば…」「財界筋では…」「巷では…」みたいなものだろう。キーワードはなんとなく特定された誰か。2人以上全員未満であり、誇張したい時は1人以上に伝える、あるいは伝われば成立する。

4で思い出すのは、クリントンがニュース23に出演した時、大阪のおばちゃんが「モニカさんの件、どない思ってはるん?」と質問した時だ。実際、自分も一番知りたかったことでよくぞ聞いてくれましたと思う反面、自分がおばちゃんの子供だったら即座に上記のように制止したことだろう。どちらに転ぶか分からない出たとこ勝負の発言、脳内では凶と出ると算出した時の予防線だ。標準語に訳せば「見境なく喋ってはなりません。まわりの雰囲気を察して話しなさい」である。もっと言えば「しゃべりすぎ。場の空気読んでよ」といったところだ。

これらはすべて指摘、叱責、注意の場面で使われ、どちらかといえば否定的な要素が含まれるがニュアンスとして「何となく」が含まれる。また、いずれも見境のない、分別のない、識別ができない様子を表すが、言われたほうも何となく促されたような気分になるので角が立たない。
 相手に配慮しつつ、快適な生活を営もうとするフレーズ、それが「だり」である。

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