一期一会
虎ノ門にある老舗ホテルに家族で泊まった。
チェックインを済ませ、ベルマンと挨拶をすると間もなく「どちらからお見えになられたのですか?」と聞かれ、「子供たちは東京にいますけど、私たちは宮城の気仙沼からです」とセイコはおのぼりさんであることを明かした。ベルマンはすかさず「私、女川なんです。」私たちは「エーッ。」家族の緊張が一瞬にして解けた瞬間だった。それまでは、先に着いたセイコは「現在地はどちら?」なんて普段使わないような言葉遣いで携帯に電話してくるし、フミヒデはジャケット着ているし、ケンジにいたっては焼きさんまの香りが残っていないか入念にチェックしているし。フロントから部屋の案内まで10分足らず。そのわずかな時間で人の心をつかみ、ホテルとの距離を縮める何かがそこにあった。何人もいるベルマンの中で彼に出会ったのは偶然で、名前も知らない。ベルマンになってまだ半年のようで、そこに話術のテクニックが存在していたわけでもない。大袈裟だが、これが一期一会なのかも知れない。
KENJI
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