本卦還り
目黒のさんまは一家が集結する数少ない機会なので、10月に還暦を迎える父のお祝いを一足先に開いた。
「え~、わたくしは大病することなくここまで生きられました。」
「崖から落ちたけどね。」
堅い話にすかさず母が突っ込む。「いつ?」と妹の横槍で話がそれる。まあ家族だからいいか。そんなにかしこまらなくても。結局何を話しているのか分からないまま乾杯し、子と孫でまとめて還暦祝を贈る。何が欲しいか密かに聞き出すよう母へ頼んだがあの夫婦のこと、内通は僕達も織り込み済だ。父は知ったかぶりも素知らぬ顔もせず、淡々と封をあけ「みなさんどうもありがとうございます」とこたえた。
それからもうひとつ、兄弟だけでサプライズを準備した。弟が母に差し出す。
「え~っ!わたしまだ還暦でないよ。」
「これは還暦まで支えてくれたお礼ということで。還暦は還暦でまた別に。」
ほんの一瞬だけど、父は目を閉じたような、焦点のあっていないような表情を見せた。しんみりとした、泣きそうな、内面と向き合っているような、なんて表現すればいいのだろう。ここで「ありがとう」と言ったら涙があふれそうだ、しかし子や孫の前だ。父の威厳に夫の体面もある。そんな表情だったと思う。言葉はなくとも、お互いの謝意が通じた瞬間だった。
帰り道、母が「今日のお父さん、酔っ払ってバガになった」と言った。見た目いつもと変わらないんですけど。
というわけで還暦祝、コスプレないけど大成功!
KENJI
いつも明るい家族で素敵な家族、良いお話、とても気持ちが良いね。
投稿情報: 秋彦 | 2007-09-18 05:49
>秋彦さん
その晩、ホテルのバーで弟と12年ぶりにサシ飲みし、あの二人なら心配しなくても勝手に生き抜くだろうと、手のかからない親に感謝しました。
投稿情報: KENJI | 2007-09-18 19:55
しぬまでいぎっからねぇ。
投稿情報: seiko | 2007-09-19 10:03