なにもしない贅沢
クリスチャンヌ・ペロションさんの家は丘の頂にある。10世紀には城というか要塞だったところにアトリエ兼自宅をつくった。それだけに眺めがいい。テラスから見える山なみに、浮かんでは消える雲をずっと眺めていたら、キヨエおっぴい(1900−1993)を思い出した。
キヨエおっぴいは晩年、店の2階から魚町一丁目商店街をずっと眺めていた。来る日も来る日もそればかり。10年近く毎日そればかりだったように記憶している。幼かった僕は幽閉された大奥に見えて可哀想だと思ったし、人と車の往来だけ見て何が面白いのだろうと思っていた。あの店に人が入っただの、今日は車が多いだの、だからといってどうこうしようというわけでもなく、ただ眺めるだけ。
トスカーナの山を見て、おっぴいの気持ちが何となくわかった。楽しみは外にあるのではなく、自らの内側にあるものなのだと。まあ、わざわざイタリアくんだりまで来て気づくことでもないのだけれど、流れゆく雲を見てそんな風に思った。なにもしない贅沢。そこにある楽しみ。そこまで達観するにはあと何年かかるだろう。
KENJI
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