街は人の香りがする
娘のプリーヌが歯医者へ出かけると言うのでついていった。車で30分、アレッツォに着く。治療の間、プリーヌのボーイフレンドにガイドしてもらった。アレッツォの起源はエトルリア時代に発し、中世には自治都市として栄え、フィレンツェやシエナに次ぐルネッサンス文化の中心地だった。半日でぜんぶ回れる広さにルネッサンス時代の絵画や建築があちこちに点在している。車一台がやっと通れる石畳の路地ばかり。ドアノブを叩きながら婆さんが何か叫んでいた。そしたら3階の窓から別の婆さんが顔だして手招きしていた。ああ、ここでも茶飲み話があって「いだのすか」「あがらい」とでも言っているのだろう。
そう思ったらドアノブに親近感が沸いて、おのおののドアノブと紋章ばかり撮っていた。それで気づいたのは左のドアノブはほとんど触られていないこと。そりゃそうだ、右が開くのだから。それに貧富の差があること。お金持ちの家は豪華な飾りが、貧しそうな家にはないかあっても牛の鼻輪みたいなものだった。大金持ちそうな家にはドアノブはない。たぶん叩いても聞こえないからだと思う。模様にも個性がある。たぶんライオンだろうが、般若の形相をしたドアノブが多く、百合や縄をモチーフにしたのもあった。魔除けの意味でもあるのだろうか。
そんなこんなで二時間弱、プリーヌが治療から戻ってきた。二人は長い間離ればなれのカップルかの如く抱き合ってキスしていた。僕は目のやり場に困って、ドアノブを撮るふりをして離れた。
KENJI
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