心で聴く
一関ベイシーへ。明らかに常連でない人たちで埋まり、咀嚼しやすい曲が流れ、この選曲は観光客向けかしらん、と思っていた。
そしたら突然スピーカーが暴れだした。カウントベイシーの『カウント・オン・ザ・コースト』。管楽器の重厚な響きが骨の髄まで伝わってくる。揺れていたタバコの煙が連続性を失って、衝撃波で分解したのかと思うほど粒子状になっている。なんだろう、急に。
少し経って、その理由が分かった。
はす向かいに手話で話すカップルが座っていた。
機材もLPコレクションも日本屈指だろうけど、無言の配慮、それが一流のジャズ喫茶たるゆえんか。客にあわせて骨伝導しやすい曲を選んだのだろう。マスターから「音は耳で聴くものではない」と無言で諭されたように思えて、音がズシンと魂に響く。そのうち涙が1個こぼれて、ばれないように上を向いたら気仙沼の写真が飾ってあるじゃないの。リアスアーク美術館から見た夜明け前の気仙沼。余計涙が止まらなくなる。
心あたたまる人たちに囲まれた幸せをかみしめて帰京した。
KENJI
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