十人二十万色
影山のり子さんの工房を訪ねた。僕は染色にまったく無知で、布に色を塗ってハイ出来上がり、みたいに安直に考えていたら大間違い。技法も染料もさまざまだ。たとえば友禅染めは型か手書きかで工程も変わるが、蒸したり洗ったり完成まで十いくつもの工程がある。京、加賀、江戸と地域によっても特徴がある。技法も調べたら辻が花だの重色ぼかしだの色々あって目が回ってしまった。
写真は染料の配合を微妙に変えながら作ったカラーチャートだ。のり子さんのお手製で、2×5mの生地に120×120種類、1万4400色が規則的に並んでいる。染色専攻の学生は授業で必ずやるそうだが、それにしても一人黙々と配合を変えながら色をつくって、布に刺しての繰り返しとは、こんな気の遠くなる作業は好きでなければできないと思った。完成までに2年かかるという。「譲ってほしいと言われたことがあったけど、これだけはね。」とおっしゃっていた。
のり子さんによれば、人間の目が見分けられる色は約2万色だそうだ。一人の手でこれだけの色をつくりだせば十分だと思ったが、120×120じゃぁまだまだ、と首を横に振っていた。もっとも、色は波長を区別するために脳内で作り出されたイメージであって、人によって見え方も微妙に異なる。そう考えると、ひとり2万色だとしても、10人だと20万色になるのかもしれない。染色の奥深さを知ると同時に、のり子さんの並々ならぬ染色家魂を感じた。
KENJI
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