あどけない話
空を見上げながら、高村光太郎の「あどけない話」を思い出した。
智恵子は東京に空が無いという
ほんとの空が見たいという
私は驚いて空を見る
桜若葉の間に在るのは
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ
智恵子は遠くを見ながら言う
阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だという
あどけない空の話である
たしか会津への修学旅行前の授業で習った。断片しか覚えていないが、智恵子は精神病を患っていた、智恵子の故郷は福島である、バスの中で安達太良山はあそこと説明を受けた記憶がある。立体的な旅行にするための配慮だろうが、僕は「東京に空が無い」イメージばかり残った。排煙にまみれた灰色の空。実感を伴なわない空虚さ。それが東京、というイメージで。以来20年、東京への印象のひとつにあったように思う。
でも違うんじゃないの。真夏の空もだったけど、晩秋の空もさわやかだ。
空の有る無しは場所じゃなく、見る人の心にあると齢三十三にして気づく。遅いって。
KENJI
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